HEAVYDRUNKER

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巡り合うまで
2012/02/07 12:03 / ひかり町スピンオフ

ひかり町ガイドブックより:

【隠れキャラ】
『源爺(げんじい)』
 出会えた人にはささやかな幸運が訪れるという。爺とつくが、外見的には老人ではなく、ネーミングはただの駄洒落のようだ。白衣姿が特徴で、たいへんに美しいそうだが、性別や詳しい容姿は不明。明治時代にはすでに似たような目撃証言がある。 

【ものがたり】
『巡り合うまで』
 人類はまだ円周率を計算しきれていないというのに、世の中には円形のものは無数に存在し、角度を使えばどんな長さのものも、割にあっさりと、いろんな数に等分できるのだ。たとえばこの電車のように。
 一両が普通より少しこぶりなこの電車は、進行方向を目を向ければ連結ごとにどこまでも少しずつ右へ右へ曲がっていて、前に進むというより、どこかへ吸い込まれていくようにも見える。実際は、どこにも行けないのだけれど。
 内側は山肌。外側には素晴らしい光景が広がっているのだろうけれど、どうせ歪んでよく見えないから、私は内側を見つめ続ける。
 静かに動き、ゆっくりと止まり、ため息の音をたててドアが開く。回り、止まり、また回る。規則正しい、波音のようなリズム。
 気付いたら左右に誰かが座っていた。私は頑なに前を向いているので、ふくふくとした小さな手の先程度しか見えないが、子供ではなくお年寄りのような気がする。
「いつまでも泣くんじゃない」
「好きなだけお泣きなさい」
 奇妙にしゃがれた甲高い声。だって止まらないの。泣き続けるのにこんなにふさわしい電車はないでしょう。
「これでもお飲みなさい」
「これでも飲むといい」
 握りしめていた拳をこじ開けるように、両手にそれぞれ小さな杯が握らされる。
 促されるままに右手を持ち上げる。お酒だ。清々しい香り。
「苦いです」
「子供だな」
 次に左手。華やかな香り。
「甘いです」
「大人ねぇ」
「じゃあ混ぜればいいですよ」
 唐突に、目の前に、ぴかぴかと光るメスシリンダを持った人が立っていた。黒いシャツにカーキ色のカーゴパンツ、裸足にビーチサンダルに何故か白衣と、ラフな格好なのに、その顔は神々しいまでに美しい。
「いいところに」
「いいとこどりに」
 その人はふふと笑って、私にメスシリンダを握らせ、どこからともなく二本の徳利を取り出した。
「さあ」
 紅白の徳利から流れだした二本の細い筋は、空中でぶつかり、絡まりあい、メスシリンダの中に落ちていく。目盛り、意味ないと思う。
 混じりあったお酒はちいさな竜巻のように、くるくると渦を巻いている。メスシリンダがますますぴかぴかと光る。
「さあ」
 目を閉じて、渦ごと飲み干す。薄荷にも花にも似たほのかに甘い香り。ひんやりと軽やかに喉を流れ落ち、凝っていたなにかを洗い流していく。
 鼻から抜けていく爽やかな余韻を味わってから、そっと目を開く。
 外側の窓から射し込んだ陽射しが、山肌を茜に染めながら流れていくところだった。薄暗い車両内には誰もいない。
 足元に小さな瓶が二本転がっている。ぼうっとしていると、コツコツと心地よい足音をたてて、車掌さんがやってきた。
 感じのよさそうな青年だ。瓶をひろいあげ、私を見る。
「ぜんぶ飲まれたんですか?」
 掲げられた瓶は、確かに昨日お土産用に買ったものと同じだけれど、そうなのだろうか。記憶は曖昧だが、そうならばとても恥ずかしい。けれど
「あれ? でも私、酔ってないみたい」
 お酒を飲んだ時の火照りも浮遊感もないし、頭はむしろとてもスッキリしてる。
 車掌さんは目を細めてふふ、と笑った。その肩に小さな梟が止まっていた。あまりに小さくて動かないので作り物かと思ったら、目が合うと瞬きをして、ほう、と鳴く。
「今日はとてもいい天気です。もうすぐ海が見えますよ」
 指を差されるままについ外を見る。再び巡ってきた茜色が視界を染めた。暮れ泥む町並みの向こうに小さな岬と真っ白な浜辺。キラキラ輝く海に沈む、大きな夕陽。
「きれい」
 見て回る予定だった景色が順々に現れては消えていく。
「夜のひかり町もなかなか楽しいですよ」
 やわらかな声にこくりと頷く。案内してください、というのは図々しいだろうかと思い、自分のあまりの立ち直りの早さに少し笑う。
「天の原でも見に行きますか」
 驚いて顔をあげると、車掌さんはまだ海岸の方を見つめていた。その横顔が真っ赤に見えるのは夕陽のせいかもしれないし。かわりに梟と目が合う。ほう、と鳴く。


*****

【ガイド】
『世界最小の環状線』
【ものがたり】
(タイトルなし)
倉田タカシさん(ひかり町ガイドブック掲載)

【ガイド】
ハレさん水・ガネさん水
穂坂コウジさん(ひかり町ガイドブック掲載)

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 ノリのままに書くせいか、だいぶ長いですね。まぁいいか。



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