HEAVYDRUNKER
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◇軽い男
ひかり町ガイドブックより:
【ものがたり】
『軽い男』
木曜日の午後六時になると、その客は店にやってくる。仕立てのいい服に包まれた全身に幾本もの鎖を巻き付け、動かない女を三人、重石のようにように引きずりながら。
なにごともない顔をして、今日もまた南京錠を買っていく。白、ピンク、ハート。女性好みの、小さくかわいらしい鍵。
「それ、外しましょうか」
「どうして?」
毎週交わす、同じ会話。
「結ばれたいから、鍵をかけるのに」
間近で見れば、男の鎖の幾本かは、強引に切られた形跡がある。引きずられることに疲れた女たちが、斧屋に切ってもらったのだろう。無理矢理に切った縁はもう二度と他の誰とも繋がることがないが、この男と繋がり続けるよりは幾分かましな選択に思えたのだろう。
「重いくらいがちょうどいい」
そう言って笑う男の顔は明るく美しい。わずかな自嘲を含んでいると思うのは、ただの私の願望に過ぎないのだ。
南京錠の袋に『どんな鍵でも開けます』と書いたチラシを入れると、仕事熱心だねぇ、と目を細める。女たちを引きずったまま、軽やかな足取りで去っていく。
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【ガイド】
『結岬』
【ものがたり】
『鍵師』
葉山あきよさん(ひかり町ガイドブック掲載)
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おまけ:
『海に眠る』
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