ひかり町ガイドブックより:
【スイーツ】
『CANDY&ROCKS』
指輪山の岩肌にへばりつくように立った小さなキャンディショップ。壁の一面を担う岩肌はカラフルなキャンディで出来ていて、注文すると、小柄な店主がアイスピックと木槌でもってほどよい大きさに砕いてくれます。
中でも人気のボンバーマンは、口に含むと光りながらばちばちと弾けます。体が揺れるほどの衝撃なので、通常は細かく砕いて少しずつ舐めるか、アイスやクッキーなどお菓子の材料に使いますが、塊のまま舐める強者もいます。
ナチュラルでハードなビートが刻めると、エアドラマーに人気です。
【ものがたり】
『光の海』
散歩をしていたら、人の振りをした人魚に、キャンディを買ってきてと頼まれた。
人魚のお使いだと告げると、店主は荒く挽いたキャンディをゼラチンみたいなもので包んだ玉を出してくれた。舐めるにはかなり大きい。
10ダースも何に使うのでしょうね、と店主に言ったら、明日の夜の8時に素潜りの用意をして海岸においでなさい、と言われる。
言われた通りに向かうと、夜にも関わらず沢山の人がいた。
波のない穏やかな夜だ。暗い水の上に、グラスボートがいくつも浮いている。
他の人を真似て、人魚岩の近くまで泳ぎ、ブイに捕まって、海の中を覗きこむ。
と、海中に、ぱあっと赤い光が飛び散った。続いて、青、黄、緑。
無数の光は、ぱちぱちと弾けながら放射状に広がっていく。ぴりびりと震えが伝わってきた。
次々と弾ける海中花火にぽかんと口を開けたところに、光の粒が飛び込んできた。口の中でもばちばちと弾ける。甘い。
と、誰かに手を引っ張られた。昼間の人魚だ。人魚は弾ける粒を器用にいくつか捕まえると、僕の口と鼻の穴に押し込んだ。一瞬溺れそうな気分になるが、あれ、息ができる?
人魚に手を引かれ、光の粒を口で捕まえながら、深く潜る。
降り注ぐ光の中、沢山の人と人魚と魚が、くるくると踊るように泳いでいるので、僕らも負けずにぐるぐる回る。
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2013.05.10 | Comments(0) | Trackback(-) | ひかり町スピンオフ
ひかり町ガイドブックより:
【ものがたり】
『おいしい折り紙』
湯葉を買いにいったはずの息子が、かわりに巨大なタタミイワシの束を抱えて帰ってきた。なにそれ、と聞くと、もらった、という。
美味しそう、といったらすばやく部屋に逃げられた。ケチ。たぶんまた折るつもりだ。
翌日洗濯を干そうとベランダにでると、物干し竿に等間隔で、おかしなものがぶら下がっていた。折り紙。犯人は間違いなく息子だ。
左から、紙飛行機、戦闘機、ロケット、鷲、猫? 猫らしきものには何故か羽根が生えている。妖怪かなにかだろうか。よくまぁこんな複雑な折りかたを思い付くものだ。
外そうとしたら、なにかまぶしてあった。ポン菓子? おかげでよくみるとあちこち鳥につつかれている。
と、息子がやってきて、折り紙を端から検分しはじめた。
「なあにそれ」
「やっぱり食われるなぁ」
我が息子ながら質問に答えないやつだ。なんの実験か知らないが、わざわざ餌をまぶしたらそりゃ、猫の妖怪でも食べられるに決まっている。
「いっそ光らせたら」
と皮肉で言ったら、すごい勢いで顔を上げた。
「いいねそれ」
折り紙をほったらかしたまま自分の部屋へと消えていく。誰かに電話をかけているようだ。無口な息子にしてはやけに盛り上がっている。
タタモンってなんだろ。
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【珍味】【ものがたり】『たたみいわし/飛行記録』
タカスギシンタロさん
(ひかり町ガイドブック別冊グルメ特集掲載)
【ものがたり】
『繁盛百珍』
オギ
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この前、巨大な焼きかまシートを食べながら、ふと、折れるなーこれ、と思った。今度試してみたいが一気食いは無理やなぁ。
2012.08.06 | Comments(0) | Trackback(-) | ひかり町スピンオフ
ひかり町ガイドブックより:
【ものがたり】
『うみねこ計画』
となり町の折り紙職人の指導のもと、次に折り上がったのは、今まさに跳躍しようとする巨大な猫だった。中身は空洞でとても軽く出来ており、素材に混じったホタルイカと、糊と補強を兼ねて塗り込まれたゆきほたるのペーストのおかげで、夕暮れに沈もうとする羽衣海岸のしろい砂の上、ぺかぺかと輝いている。
猫の背には大きな大きな羽根が生えていた。もちろん空を飛ぶためである。
数人の若い漁師が、左右から猫を抱え上げた。数匹の鳶が、人間たちの行いを怪しむように、上空を旋回している。
すっかりと日が落ちて、風がぱたりとやんだ瞬間をみはからって、折り紙職人がさっと手を上げた。
猫が力強く押し出される。それは意外な滑らかさでふわりと空に乗った。漁師たちの間に歓声がおこる。
と、鳶が一羽、猫の頭に襲いかかった。だがぶ厚く塗られた糊が、逆にその鍵爪を絡めとる。
焦った鳶の羽ばたきのまま、ぺかぺかと輝く猫はくるくると回りながら、空へ、海の上へと運ばれていく。
「鳶は大丈夫かな」
「糊が乾けばたぶん。ほら」
不意に猫の動きが変わった。鳶の鳴き声が響く。猫は不安定に傾きかけたが、上昇気流に乗ったのだろう。あっという間にはるか上空にすいあげられていった。剥がれ落ちた微かな欠片が流星のそれのようにきらきらと尾を引く。
折り紙職人と漁師たちは、猫がすっかり見えなくなるまで目を凝らし、ふう、と満足気な吐息をもらした。
「こんなに飛んだら記録がはかれないねぇ」
彼らは想像もしなかったが、一年後にも猫はまだ空を飛んでいた。多くの天文愛好家によりその不思議な姿が目撃されている。奇跡か、いたずらななにかの仕業か。新たな名物が増える日は近い。
***
【珍味】【ものがたり】『たたみいわし/飛行記録』
タカスギシンタロさん
(ひかり町ガイドブック別冊グルメ特集掲載)
2012.08.06 | Comments(0) | Trackback(-) | ひかり町スピンオフ
ひかり町ガイドブックより:
【和食】
『湧水百珍』
地元の大豆で作ったとうふと湯葉を中心に、川魚・山菜など、ひかり町の山と水の恵みを満喫できる『湧水百珍』
名物の繁盛湯葉は、その響きの通り半畳もの大きさがあります。様々な食材に湯葉をたっぷりと巻いて蒸しあげた湯葉巻きは、おもわず頬の緩むおいしさ。お祝い事や、お土産にもどうぞ。
【ものがたり】
『繁盛百珍』
紙状のものがあれば折りたくなるのが性なのだろう。折り紙職人の息子が夜のうちに、土産で貰った巨大な湯葉を勝手に戻して、大きなたらば蟹を折りあげていた。しかたないので丸揚げにして塩で食す。美味。
次の日にはトリケラトプス。なぜ恐竜なのか。焼き目をつけて餡掛けにする。美味。
土産は二枚きりだったが、気に入ったのかその後も自分でちょくちょく買ってくる。せっかくなので折り紙料理の数々をブログにアップしたら問い合わせの多いこと。湯葉がよく売れると店からも感謝された。
お前の仕事はどうなのと息子に聞くと、湯葉でいくつも繋がった鶴を折りながらにいっと笑う。鶴か。腹に餡をつめて餃子かな。
翌日息子がお世話になってる出版社から電話が来る。
「折り紙料理を本にまとめませんか」
横目で息子を見ると、鶴の残りを頬張りながらにいっと笑う。半分は私の手柄じゃない?
2012.04.19 | Comments(0) | Trackback(-) | ひかり町スピンオフ
ひかり町ガイドブックより:
【和食】
『割烹うなにや』
うなにとはひかり町の近海に棲息する鰻に似た珍しい魚です。
ぷるぷるとした透明な身は、火を通すとふわりととろけるような食感に。蒲焼きはもちろん、天麩羅や刺身、鍋などでも美味しくいただけます。ひかり町でしか味わえない極上うなに尽くし、是非一度お召し上がりください。
【ものがたり】
『遠き海辺にて』
いいものを食わせてやるとSが呼ぶので、夜の堤防をほてほてと歩く。
堤防の先端で、Sはなにかを海に撒いていた。アルミホイルの中には、ぺかりとしろい光。
「ゆきほたる?」
「先週届いた」
光る米粒は暗い水の中を、牡丹雪みたいにふわふわと沈んでいく。
「もったいない」
「見ろ」
ゆきほたるの粒はあっという間に消えていき、代わりにぼんやりとした魚影が浮かび上がる。さらに奥で、稲妻のような鮮やかな光が翻った。
「え、うなに?」
ここはひかり町から何百キロも離れた場所なのに。
「昨日見つけた」
ゆきほたるを撒くと集まってくる。透明な体は他の魚よりよく光る。懐かしい、なつかしいひかり。
「釣るのやめる?」
腹這いになり見入っていたら、Sがぽつりと聞いた。
「……塩焼き食いたい」
「うん」
「天麩羅シウマイ卵とじ」
「うん」
Sが釣糸を垂らす。ゆきほたるをぱらりと撒く。
「黒団子も食べたい」
光る海面に手を伸ばす。届かない。くう、と腹がなる。切ないのに笑える。
2012.04.19 | Comments(0) | Trackback(-) | ひかり町スピンオフ
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