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捩レ飴細工

 あるところに妻を亡くした男がいました。横たわる妻の顔は、まだ不思議なほど瑞々しく、とても埋める気になれません。
 髪を撫で、頬に口づけた男は驚きました。甘く濃いミルクの味がしました。髪の毛は香ばしいカラメルのよう。蜂蜜、果物、チョコレート。妻の体は、どこもとろけるように甘く、とびきり上等なお菓子の味がしたのです。
 ほんの少しためらった後、男はまず妻の小指を折りとり、口に含みました。

「それから?」
 喉に絡む甘さをお茶で飲み下す。飾られた細工菓子のすばらしさに、つい店を覗いただけなのに。いつのまにこんな話になったのか。
「ある日男は気付きました。自分の指がとても甘いことに」
 なるほど先が読めた。それは何かの呪いで、この精巧なお菓子の動物たちも、元は生きていたのです、と続くのか。
 私の考えを見透かしたのか、店主は薄く笑う。
「男の虚言か妄想かもしれませんけどね」
「それも怖いな」
 しかしもし何かの呪いだとしたら、妻はいったいどうしてそうなったのだろう。
 考える私の前に、店主が新しいお菓子を置いた。小さな花を丸ごと封じた、なんとも美しい飴だ。
「さぁ、試食をもっといかがです」

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2007.10.09 | Comments(0) | Trackback(-) | 500文字の心臓

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