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仮面

 幼い頃、事故で酷い傷を負ったという兄やの顔は、今朝もぴったりとした鉄色の仮面で覆われている。兄やはとても静かになめらかに動く。寝起きのぼんやりした頭で眺めると、よく出来たからくりのようだ。
「遅れますよ」
 起こしに来るとは珍しいと思ったら、どうも寝過ごしたらしい。
 着替えを持ってきた兄やの、唯一のぞく口元に、昨日はなかった痣を見つけて問うと、今朝方メイドとぶつかりまして、と笑う。仮面の無表情を補うように、兄やの声はいつも豊かで柔らかい。 
 身支度を整えて朝の間へ行くと、弟と朝食をとっていた義母が、なぜか顔色を変えた。義理の親子関係に亀裂が入って久しいが、今日はとみに様子がおかしい。視線を追って兄やを見るが、表情が読めるわけもない。
 義母たちが去った後、向かいあわせで朝食をとりながら、そういえば、と、とても今更なことに気付く。物心ついた頃には傍にいたが、僕は兄やの素顔を、一度も見たことがない。
 視線に気付いた兄やが顔を上げる。細いスリットの奥、僕と同じ色の瞳が、笑うように細められた。

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2007.12.08 | Comments(0) | Trackback(-) | 500文字の心臓

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