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 殺す予定の男が、茶でも飲もうやと言うので、自販機のコーヒーを手に廃ビルの屋上へ登った。風が強くて乾いている、いい天気だ。
 錆びた柵越しに地上を眺めながら、のんびりと缶を傾ける。
 彼が属する教団は先日、世界の核となる宝珠を砕き、そのかけらを千人の信者へ埋め込んだ。全ての欠片をつなぎ合わせなければ、早くて数年のうちに、世界は均衡を失い滅びへ向かう。
 宝珠は生気を好み、生きている物からは回収できない。
「十人殺しても大騒ぎな世の中に、千人」
 ぼそり、と男が言う。
「大変だな、あんた」
 カルト教団を狙った連続殺人。すでに世間は騒ぎはじめている。けれど。
「関係ないからいいけど、ってさ」
「誰が」
「その辺の学生」
 鼻で笑って、男は俺を見た。静かな目だ。狂気も狂信も宿さない、穏やかな。
「いっそ全部滅んじまえばいいと思わないか」
 世界が滅びようと俺に殺されようと、どのみち男は死ぬ運命だ。
 捕まれば俺は裁かれる。自分が救おうとした、何も知らない人々に。
 投げつけた缶はあっさり避けられ、風に巻かれて飛んでいく。
「……かわいそうに」
 缶の行方を見送って、俺たちはおもむろに向かい合った。地上の喧騒はひどく遠い。


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2008.02.05 | Comments(0) | Trackback(-) | 500文字の心臓

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