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誰よりも速く

 独居老人へ、という手紙と共に我が家にやってきたのは、一体の介護用アンドロイドだった。先日逝った友人の形見らしい。
 青年型のそれは、表情にこそ乏しいが、見た目も声も人にしか見えない、最高級機種だ。奴は確かに天才と謳われていたが、私にとってはただの悪友、なにかの冗談かもしれないと思いつつ、青年との同居は始まった。
 ひとまず家事の腕は抜群だ。無口だが、その静けさは好むところだ。手書きの仕様書に、車の運転可能と書かれていたので、試しにさせてみたのがいけなかった。
 市場に行く予定が、あれよという間に道を逸れ、スピードが上がる。唖然としているうちに街を抜け、一気に視界が開けた。
「介護用なんてウソだろう」
 ようやくの私の叫びに、
「緊急時に速やかな搬送を可能とします」
 言いながら、青年は初めて、にやりと笑った。
「という名目です」
 車体は安定していて危なげない。加速によるGに押されるままに、私は座席へ沈み込んだ。不意に笑いと涙がこみ上げる。奴の考えそうなことだ。
 海、と言うとすかさずハンドルを切る。景色は素晴らしい速さで飛び去っていく。青年が懐かしい音楽をかける。
 どこまでも、走ればいい。

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2008.03.10 | Comments(0) | Trackback(-) | 500文字の心臓

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