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謎ワイン

 瓶の形はブルゴーニュだが、ラベルもなにもついてない。何年も前から、コルクに栓抜きを突き刺したまま、こけしや達磨と並んでレジの横に置いてある。大将曰く、皐さんのみやげだよ、ということだが、皐さんが誰なのか、いまだにわからない。
 中身は半分ほど入っていて、酔った常連客が、たまに勝手に栓を抜く。
 狭い店内に、あらゆる花と果実を集めたような、みずみずしい香りがたちこめると、誰もがいっせいに深呼吸をする。
 グラスがないのでぐい呑みだ。ぽってりと白い今焼きに、深く艶やかな紅が煌めく。
 ひんやりとした液体は、甘く複雑な味わいを描きながら、するすると喉の奥に染み込んでいく。子供の頃、外国の絵本を読みながら想像したぶどう酒の味は、こんな風ではなかったか。
 ふだんは焼酎しかやらない大将までもが、ちいさな子供みたいに頬を染め、ぽやん、とその余韻に酔っている。頭上を流れる三味線の音色さえ、こころなしか、あまい。
 翌日店にいくと、瓶はいつもどおりの場所にあり、中身は少しも減っていない。
 たまに金色の時もある。ひやしあめの味がする。

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2009.12.25 | Comments(0) | Trackback(-) | 500文字の心臓

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