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ペパーミント症候群

 あの日から一年が過ぎ、彼女の両親はようやく娘の体を取り戻したようだ。手紙と共に送られてきたのはひと房の長い髪の毛で、懐かしい、微かに甘いメンソールの香りがした。
 日に日に澄んで強くなるその香りに不安を覚えなかったといえば嘘になるが、最初の頃はまだ誰一人、その意味を深く考えてはいなかった。
 蚊に刺されないなんて羨ましい、と言う私に、でも猫にも逃げられるの、とうなだれる。うちの猫は歯磨きの香りが大好きだから、今度連れてきてやろうと言うと、ほんとに? と、ぱぁっと笑った。
 その翌日に最初の死亡者が出た。事態は急変し、約束は果たせないままに終わった。

 膝のあたりをとん、とつつかれ、見ると件の猫が髪の先にじゃれついている。
 ひと筋指先に巻き付け、鼻先につきだすと、匂いをかいでから、嬉しそうに頭をすりよせてきた。
「……ほらね」
 呟いたとたんぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。滴を額で受けた猫が、まあるい目できょとんと私を見上げている。

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2010.08.08 | Comments(0) | Trackback(-) | 500文字の心臓

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