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シェルター

 薔薇が咲いていた。そう、彼は薔薇を育てていた。天を覆う硝子はミルクのよう。やわらかな光の中、とりどりの薔薇は伸びやかに絡み合い、まるで華やかな迷路のようだった。
 彼は薔薇の茂みのあちこちにぽっかりと空いた小さな空き地で過ごすのが好きだったから、私は朝起きると、まずいちばんに彼を探しにいった。
 そのまま彼の横で眠ることもあれば、一人で薔薇を眺めたり、絵を描いたり。せがんで本を読んでもらうこともあった。ほとんどの時間を彼にくっついて過ごした。
 本。本はたくさんあった。とてもたくさん。
 信じられるかい。あの場所で私は彼と薔薇以外の生き物をアブラムシ一匹見たことがない。蝶も蜂も。すべては図鑑の中の生き物だった。
 美しいという感覚はどこから生まれるのだろう。薔薇が美しいように、図鑑でみる生き物や光景を美しいと思うように彼もまた美しかった。
 食事かい。飢えない程度に食べていたよ。堅パンや缶詰なんかの保存食さ。つまらないことを聞くねぇ。
 何年あの中にいたのだろう。足りないものだらけの生活だったけれど、人生のなかであれほど満ち足りていた時間はなかった。
 偉そうなことを言ったね。ああ、この薔薇の香りを嗅ぐまで、すっかり忘れていたとも。なにしろ私はとても幼かったし、その後の人生ときたら豊かではあったけれど様々な出来事や感情に溢れ、幼い頃の美しく穏やかなひとときを思い出す暇などなかったのだから。
 この世界にもまだ薔薇があったんだねぇ。なに、作り物なのかい。そんなこと黙っておけばいいんだよ。せっかくこんなに良い香りなんだから。
 覚えているよ。あの日、割れた硝子の間から見た空の蒼さと吹き込む風の冷たさに私は震えた。私の世界は崩壊し、そして限りなく広がった。
 彼はどこにいったのだろう。あんなに咲き誇っていたのに、薔薇はどこに消えたのだろう。
 ああ、寂しくなんてないさ。お前たちがいるし、この世界にはやることが沢山ある。またすぐに忘れてしまうだろう。
 けれどいつか、もちろんだいぶ先の事だけれどその日が来たならば、私と一緒にこの薔薇を一本入れておくれ。
 薔薇と私と、彼の夢を見ながら眠ろう。新しい世界の始まりまで。

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2012.10.30 | Comments(0) | Trackback(-) | 超短篇

月と犬




20121029 

 月が出てるけど明るいからコン様も一緒に撮れちゃうわよー。朧月だからか、月がでっかく見える。

 でも携帯だとやはり画像粗いから、明日はカメラを持っていこうかな。
 散歩道がおもいきり農道&遠くの看板が眩いのがちょっとなんだけど。
 もっと美しい景色ならさぞや幻想的な写真が撮れそうだ。シルエットの綺麗な並木とか。撮りに行きたいなぁ。
 まぁ畑が広がってて、空が広くて、山の上にぽっかりと月っていうのも、実はけっこう好きだ。 
 あとコン様が可愛ければそれでよしなのだ。


2012.10.29 | Comments(0) | Trackback(-) | 日記もどき

すいている

 お前の頭ときたら鳥の巣のようだ、ちゃんと櫛をいれてるかいと、腹立たしいことをいうのだけれど、その指先がひんやりと心地いいので、言葉を飲み込み、なされるがままに髪をいじらせる。
 少し伸ばせば落ち着くと聞くよと言われても、あらぬ方向にくるりひょこりとねじまがる髪は、自分でいじればますます絡まり、毛玉のできるのを嫌った母様が、そのたび短く切ってしまう。そんなことをどこもかしこもまっすぐなこの人に言ってもわかるまい。
 一房一房、絡まりをほどきなだめるようにそっと撫でる。そんなことをしたところで、小一時間もすれば元通りなものを。
 目線をあげれば鏡越しに、小さな猫でも見つめるような、笑み崩れた顔が見える。
 鏡像を頼りにその長くまっすぐな髪に手を伸ばし、一房指に絡ませれば、耳元に、ふふ、と明るい笑い声がこぼれる。
 喉の奥にある言葉はいつだって声にはならずじまいだ。かわりに、にゃあ、と鳴いてみる。冷たい手にそっと頬を寄せる。

2012.10.26 | Comments(0) | Trackback(-) | 超短篇

しゃぼんうり

 今時しゃぼん玉売りだなんてよ。洗剤やなんかをちゃちゃっと混ぜりゃできらぁなあんな液。わざわざ買うまでもねぇ。
 しかも夜の飲み屋街だよ。まぁ、酔っぱらいどもがいい年こいて楽しそうにぷぷっと飛ばしていやがったがね。
 小馬鹿にしてたのがばれたんだろな。しゃぼん玉売りのやつ、目が合ったらつーっと寄ってきやがった。
 風変わりな奴だったよ。古ぼけた詰襟にマント。茹で玉子に穴あけたようなつるんとなまっちろい顔で、にたぁと笑うんだ。
「さて皆さまお立ち会い」
 ばさぁっとマントをふると、たらいと巨大なわっかが現れた。どっからともなく取り出した瓶から、まっくろな液体をとぷとぷ注ぐ。
「取り出しましたるこの秘薬、大陸の果て崑崙の麓、あわいに生える泡雪草を三日三晩煮出したものに、月下美人の花の蜜と、千年杉の炭の粉、海渡る蝶の燐粉をちょいと混ぜ、さらに二晩煮込んで出来た、世にも珍しき黒しゃぼん。ここにおられるたくましき紳士をかようにつつみますと」
 ぶわん、としゃぼんの膜を引きながら虫取網みてぇにわっかが被さってきて、とたんになんにも聞こえなくなった。俺の悲鳴もきっと誰にも聞かれちゃいまいよ。
 迷惑なことだもちろん暴れたよ。しかしずいぶん丈夫なしゃぼんだった。突いても払っても割れやしねぇ。
 街のあかりはうっすら透けて見えるけれど、のぞきこんでも、歪んで映った手前の顔が見えるだけ。
 真っ黒な中、目をやる少し先が七色にてらてら光って、つい目で追うけれど、どこまでも追い付かなくて目が回る。曜変天目にあたまを突っ込んだような心地だ。
 せめて地面に足がついてりゃ問題ないが、ふっと足元をみれば、いつのまにやら足の下までしゃぼんが入り込んでやがる、そうなりゃもう上も下もわからねぇ。
 しゃぼんに映る手前の顔が、ぐるぐる回って歪んで伸びて、ぎゅっと縮んで、子供の時分の姿になって、また目まぐるしく年をとっていく。ぐるぐる回るてらてら光る。そのうちになぜかずいぶん昔に亡くなった爺さまや幼友達の顔までもがきらんきらんと浮かんでは消え、なるほどこれは世に聞く走馬灯か、息が苦しい、俺はもう駄目だと観念したとたん
「さあ皆さまとくと御覧あれ」
 ぱしゃんと飛沫が降り注ぎ、薄汚い道っぺたにへたり込んで、酔っぱらいどもからまばらな拍手を浴びていた。何が起きたかさっぱりわからねぇ。
 やけにねちっこく俺の顔を見つめるやつらをかき分け押し退け家に帰る。
 ばしゃばしゃと水をかぶって頭を冷やし、ふと目の前の鏡をのぞきこむ。そこには、目鼻の形は変わらぬが、血の気も日焼けも抜け落ちた、つるんと白い顔。以来ずーっと白いままさ。
 あれをあんまり繰り返すと、あのしゃぼん玉売りみてぇな、つるっつるのたまごっツラになっちまうのかもしれねぇなぁ。
 なにそいつはうらやましいって。ならば効き目は御覧の通り。むくつけき親父がこれこの通り。
 摩訶不思議なる黒しゃぼんをたっぷり使った黒石鹸、ふっくら泡立てひと撫ですれば、つるり輝く玉の肌。おひとついかがでございましょう。

2012.10.24 | Comments(0) | Trackback(-) | 超短篇

ゾロ目画像



 昨日と今日。

 だからなにといわれたらそれまでながら、なんとなく気持ちいいゾロ目。レシートとかはとっててみても結局捨てちゃうから画像ていいかも。
 上のはカメラなのだが、撮ってる途中ではなく、他のカメラで撮ったデータを見ようとこのカメラにカードを入れたら、撮影可能残数がこの数値だった。
 下は漫画三冊洋書一冊。円相場とディスカウントの絶妙なる合わせ技。

2012.10.15 | Comments(0) | Trackback(-) | 日記もどき

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