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遠き海辺にて

ひかり町ガイドブックより:

【和食】
『割烹うなにや』
 うなにとはひかり町の近海に棲息する鰻に似た珍しい魚です。
 ぷるぷるとした透明な身は、火を通すとふわりととろけるような食感に。蒲焼きはもちろん、天麩羅や刺身、鍋などでも美味しくいただけます。ひかり町でしか味わえない極上うなに尽くし、是非一度お召し上がりください。

【ものがたり】
『遠き海辺にて』
 いいものを食わせてやるとSが呼ぶので、夜の堤防をほてほてと歩く。
 堤防の先端で、Sはなにかを海に撒いていた。アルミホイルの中には、ぺかりとしろい光。
「ゆきほたる?」
「先週届いた」
 光る米粒は暗い水の中を、牡丹雪みたいにふわふわと沈んでいく。
「もったいない」
「見ろ」
 ゆきほたるの粒はあっという間に消えていき、代わりにぼんやりとした魚影が浮かび上がる。さらに奥で、稲妻のような鮮やかな光が翻った。
「え、うなに?」
 ここはひかり町から何百キロも離れた場所なのに。
「昨日見つけた」
 ゆきほたるを撒くと集まってくる。透明な体は他の魚よりよく光る。懐かしい、なつかしいひかり。
「釣るのやめる?」
 腹這いになり見入っていたら、Sがぽつりと聞いた。
「……塩焼き食いたい」
「うん」
「天麩羅シウマイ卵とじ」
「うん」
 Sが釣糸を垂らす。ゆきほたるをぱらりと撒く。
「黒団子も食べたい」
 光る海面に手を伸ばす。届かない。くう、と腹がなる。切ないのに笑える。

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2012.04.19 | Comments(0) | Trackback(-) | ひかり町スピンオフ

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